脊髄動静脈瘻・脊髄血管奇形

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脊髄動静脈瘻・脊髄血管奇形

概要

脊髄にも脳と同様、動脈及び静脈が存在し、脊髄と取り囲む硬膜という膜に硬膜動脈、静脈が存在します。本来は血液は動脈から毛細血管に入り、脊髄や硬膜組織を栄養し、静脈に流出するのですが、これが毛細血管を介さずに、静脈に圧の高い動脈が直接流入することがあり、これを脊髄動静脈シャント、ここでは理解しやすいように(広い意味での)脊髄血管奇形と呼びます。

脊髄血管奇形にはいくつかの種類があります。

分類方法は多数ありますが、ここでは血管異常の場所による分類を示します。

①髄内動静脈奇形 intramedullary arteriovenous malformation:脊髄内に動静脈奇形が存在するもの。

②脊髄辺縁動静脈瘻 perimedullary arteriovenous fistula:脊髄の表面に動静脈奇形があるもの。

③脊髄硬膜動静脈瘻 dural arteriovenous fistula:脊髄を包む硬膜上に血管異常があるもの

④脊髄硬膜外動静脈瘻 epidural/ extradural arteriovenous fistula:硬膜の外に血管異常があるもの

原因・症状

①髄内動静脈奇形(狭い意味での脊髄動静脈奇形)は脊髄内にナイダスと呼ばれる動静脈がつながる異常血管の塊が存在するものです。先天的なものと言われ、脊髄内出血やくも膜下出血の原因となります。また静脈高血圧と呼ばれる状況では脊髄浮腫(腫れること)の原因ともなりえます。脊髄内出血では出血した脊髄レベル以下の対麻痺(両上肢や両下肢の麻痺)、感覚障害、膀胱直腸障害などが出ることがあります。頭蓋頚椎移行部のくも膜下出血では意識障害、呼吸障害など脳の障害が発生することもあります。

 

②脊髄辺縁動静脈瘻は脊髄表面の動脈が静脈に直接流入するもので、こちらも先天的なものと考えられています。拡張して脊髄を圧迫したり、脊髄表面で破裂しくも膜下出血を起こす場合があります。多くの症例では遺伝性はありませんが、遺伝性の動静脈奇形疾患であるオスラー病ではこのタイプの動静脈瘻を多く認めます。

 

③脊髄硬膜動静脈瘻は中高年の男性に発生することが多く、胸椎、腰椎、仙骨、頭蓋頚椎近傍などに発生します。脊髄の血管奇形の中では最も数の多いものです。多くの場合原因は不明ですが、外傷(ケガ)、脊椎手術などが原因となることもあります。硬膜上に動静脈のつながりがあり、圧の高い静脈血流が脊髄表面に流れ込み、脊髄の浮腫と機能の障害を起こします。対麻痺、単麻痺、感覚障害、膀胱直腸障害などを生じます。頭蓋頚椎近傍のものはくも膜下出血を起こすこともあります。

④脊髄硬膜外動静脈瘻は脊髄を包む硬膜の外に病変の中心があります。多くの場合、原因は不明ですが、外傷(ケガ)、脊椎手術などが原因となることもあります。動静脈瘻から流出する血流が硬膜の中に入り込む場合には脊髄の浮腫が起き、脊髄硬膜動静脈瘻とほぼ同様の症状を呈します。流出血管が脊柱管外に出る場合には脊髄浮腫は起こしませんが、血管が拡張し、神経や脊髄を圧迫することで症状が出ることがあります。

検査・診断

脊髄血管奇形は非常にまれな疾患です。このため本疾患を疑い、それに見合った検査を行わないと診断がつかない恐れがあります。

脊髄血管奇形を疑った場合には、まず単純(造影剤を使用しない)脊椎(脊髄)MRIを行います。

脊髄は頚髄、胸髄、腰髄と長さがあるため、一部分だけの検査では診断がつかない場合があり、できるだけ幅広く撮影します。下肢の運動麻痺、感覚障害、膀胱直腸障害などの症状を的確に診断し、その症状が出うる部位の脊髄の浮腫や出血がないかどうかを確認します。この場合、T2強調画像の矢状断画像が有用で、ここで出血や浮腫(T2強調画像では高信号に移ります)を見ると同時に、異常血管を示すフローボイド像(T2強調画像で点状に黒く抜ける信号)を探します。
これらの所見がそろうと、脊髄の何らかの血管の病気とそれに伴う脊髄の障害が予想されます。

脊髄血管異常が単純MRIで予想される場合には、造影剤を使用したMRアンギオグラフィー、CTアンギオグラフィーを行うことにより、さらに脊髄異常血管の有無の判別がしやすくなります。

これらの検査により、脊髄血管異常が強く疑われても、まだ脊髄血管奇形の正確な位置や分類を行うには不十分であり、確定診断とはいいがたく、さらに精密な検査が必要となります。

脊髄血管奇形の診断を確実にし、治療方法を決定するためには、カテーテルによる脊髄血管撮影が必須となります。鼠径部(太ももの付け根)にある大腿動脈を穿刺し、大動脈から分岐する脊髄や周囲硬膜を栄養する可能性のある血管にカテーテルを入れ、それぞれ撮影していきます。

病変が描出される場合には3D画像やconebeam CTといわれる細かな断面を見る画像を撮像し、正確な脊髄血管奇形の部位と診断をつけます。同時に正常な脊髄の血流を見るために、前脊髄動脈、後脊髄動脈を確認します。病変の部位とその構造、正常血管と病気の関係を把握したうえで、最も適した治療方法を決定します。

治療法(手術)

脊髄血管奇形の治療の中心はカテーテル治療(血管内治療)と外科手術の2つです。薬物治療は有効ではなく、放射線治療も上記2つの治療成績を上回ることはありません。

下記に述べるように治療法の選択は病気の種類によって異なるので、正確な病気の診断が重要になってきます。さらに大事なことは、外科及びカテーテル治療は異常な血流を遮断することが目的であり、傷んでしまった脊髄をもとに戻す治療ではありません。病気を発症してから時間が間もないときは異常血流の遮断により症状の改善が期待できます。

一方で、長期にわたり診断がつかず、脊髄の傷みが強い状態が続いている場合には画像上は異常血管が消失しても、足の麻痺、しびれ、いたみ、排尿、排便などの機能は改善しないこともあります。

下記に病変のタイプと選択されうる治療法を示します。

①髄内動静脈奇形(狭い意味での脊髄動静脈奇形)は病変の中心が脊髄内に存在し、正常脊髄の血流を担う血管が病変にもつながっているため、合併症をおこさずに、完全に病気を焼失させることは多くの場合困難です。
脊髄の障害を起こすこと多いため、通常外科手術による摘出は行うことができません。カテーテルによる治療が中心となりますが、カテーテルでも脊髄梗塞の危険が高いため、病変を根治(すべて消すこと)することを求めない方が良い場合が多いです。出血を起こしてしまった髄内動静脈奇形に対しては、細かな血管造影検査を行い、出血の原因となっている部位(動脈瘤など)がはっきりしている場合にはその血管より液体塞栓物質(NBCAを用いることが多い)で出血部位を閉塞します。
また動静脈奇形の血流が多いために脊髄症状が出ている場合には、安全と考えられる部位を液体塞栓物質ないし粒状塞栓物質で閉塞し、血流を低下させます。


②脊髄辺縁動静脈瘻に対しては、カテーテルが病変近くまで到達し、安全と考えられれば塞栓物質(NBCAまたはコイル)で閉塞します。脊髄の後方から確認可能な部位では外科手術により病変を離断することで治癒します。どちらが適しているかは脊髄血管造影の結果判断されます。


③脊髄硬膜動静脈瘻は、硬膜上の病変(動静脈短絡)から硬膜内に通常1本の静脈が逆流して流れ込みます。硬膜内に入ったこの病的静脈を閉鎖することで治癒します。外科手術、カテーテル治療両方が可能です。

外科手術では背中の真ん中を切開し病変がある部位の脊柱骨を露出、これを外して、背側の硬膜面を露出します。硬膜を切開し、通常外側から流れ込む異常な静脈を確認、これを離断します。病変の正確な同定・確認と正確な露出を行う手術手技の二つが重要です。病変さえはっきり確認できれば、ほぼ全例の脊髄硬膜動静脈瘻は確実に外科手術で閉鎖することができます。

カテーテル治療では、硬膜上の病変近くまでカテーテルを到達させ、NBCAという液体の塞栓物質を用いて、硬膜上の病変から硬膜内の逆流静脈までの部位を閉塞させ(かため)ます。閉塞ができれば外科手術に比べ、痛みはなく、術後の回復も早い治療法です。しかし、閉塞させる血管から正常な脊髄への栄養動脈が出ている場合にはカテーテル治療はできませんし、液体塞栓物質が十分に静脈側まで到達しないと治癒せず、外科手術よりも完全治癒率は低いといわれています。

④脊髄硬膜外動静脈瘻は硬膜の外に病変の中心があるため、外科手術で切開をすると出血が多くなる危険があることや、硬膜の外の病変は全貌の確認が難しいことから、カテーテル治療が選択されることが多いです。動脈側ないし静脈側からカテーテルを病変の中心またはその近くまで導入します。
液体塞栓物質ないしプラチナコイル、時には粒状塞栓物質などを用いて、病変を閉鎖します。

カテーテル治療では十分な効果が得られない場合には外科手術を行いますが、これは病変のすべてを治すよりも、硬膜の中へ逆流する硬膜内静脈を切離することで、脊髄の正常血流の回復を促すものです。

治療後経過

脊髄血管奇形の残存や再発に対して、定期的に経過観察をする必要があります。基本はMRAでフォローを行い、必要な際に脊髄血管撮影を行います。しびれなどの後遺症状が残ることがありますが、外来にて薬物をお出ししたり、必要に応じてペインクリニックでの対応をお願いしています。

慶應脳外科としての取り組み(特長)

これまで述べてきましたように、脊髄血管奇形は診断をつけるのが難しく、そのために治療開始まで時間がかかり、結果として回復が思わしくない例があるのが問題とされています。このため当院では、原因のはっきりしない脊髄の浮腫などがあり、脊髄血管奇形が疑われる場合には、MRI、CTなどを行った後、早期に脊髄血管造影の経験が豊富な脳神経外科にて細かい脊髄血管造影を行っています。

治療に関しては、我が国の脊椎脊髄疾患の治療においての中心的な役割を果たしている慶應義塾大学医学部整形外科学教室と密に連携して治療を行っています。当大学においては診療科の間のつながりが強く、患者さんに最も適切な治療を提供できる総合力は随一と考えています。血管内治療が適していると判断された場合には、脊髄血管の治療の経験豊富な脳神経外科専門医師が治療にあたります。外科手術を行う際には手術の主担当は整形外科となりますが、必ず脊髄血管障害の専門である脳神経外科医が手術の計画に関与し、手術にも立ち会います。また必要な場合には手術中の血管造影、その他特殊な検査法を提供し、より安全かつ確実な手術になるように、心がけています。

本疾患の脳神経外科 担当医師は 

  • 秋山武紀(外来:毎週月曜日 午前、金曜日午前・午後)
  • 水谷克洋(外来:毎週月曜日 午前、第2、4、5土曜日 午前)です。 

文献

1. Bakker NA, et al. Neurosurgery 77; 137-144, 2015.

2. Tsuji O, et al. Clinical Neuroscience 36; 436-440, 2018

3. Gross BA, et al. Neurosurgery 73: 141-151, 2013.

4. Takai K, Taniguchi M. Neurosurg Focus. 2012; 32: E8.

ご不明点など、下記お問い合わせフォームに直接ご相談いただけますと幸いです。

本疾患の脳神経外科 担当医師は 
秋山 武紀(外来:毎週月曜日 午前 金曜日 午後(脳外科外来))です。
水谷 克洋(外来:毎週月曜日 午前 金曜日 午前(脳外科外来))です。

脊髄動静脈瘻・脊髄血管奇形に関するご相談は、以下フォームよりお問い合わせください。

受診をご希望の患者さんへ

外来受診については、慶應義塾大学病院のホームページ内の「初めて受診する方」に詳細をお示ししておりますが、「予約制」「紹介制」をとらせていただいています。

  • 一人一人の患者さんを十分に診察、説明させていただきたく、またお待ちいただく時間を短縮するために、外来は予約制とさせていただいております。

  • 予約の際には、ご病状を速やかに把握させていただくため、現在かかりつけの医療機関からの紹介状をお持ちいただくようお願い申し上げます(紹介制)。これまでに受けた検査(MRIやCTなどの画像検査、採血検査など)の結果もお持ちいただけますとたいへん助かります。

  • お手数をおかけいたしますが、かかりつけの医療機関から、下記の予約方法で本疾患担当医師の外来を予約していただきたく存じます。


<脳神経外科外来の予約方法>
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