中枢神経系原発(脳・脊髄原発)悪性リンパ腫とは、診断時に中枢神経系以外に明らかな病巣のみられない悪性リンパ腫であり、原発性脳腫瘍の約5%を占めます。高齢者に多く、近年増加傾向にあります。
発生原因はまだ明らかとなってはおりません。臓器移植後や自己免疫疾患のため、免疫抑制剤を長期内服されている患者さんでは、移植後リンパ増殖性疾患(PTLD)として、悪性リンパ腫が発生することがあります。
一般に症状の進行は早く、発生部位による巣症状や頭蓋内圧亢進症状(神経膠腫の項参照)のほか、(血管に沿って浸潤性に進展するため)認知機能低下などの精神症状が生じやすいことも特長です。また、まず仮性ぶどう膜炎(眼内リンパ腫)が先行し(霧視など、目が見えづらくなる)、1~2年後に脳病変が出現するものもあり、注意を要します。
50歳以上の中高年に多く、病理学的には、そのほとんどがびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(diffuse large B cell lymphoma, DLBCL)です。
手術摘出率は患者さんの予後に関係しませんが、手術により腫瘍組織を採取し、悪性リンパ腫であることを確認する必要があります。放射線治療、化学療法に対する感受性は高く、多くの例で1度は腫瘍が縮小あるいは消失しますが、再発もまた多く見られる難しい病気です。
他臓器原発の悪性リンパ腫に対して使用されるCHOP療法を放射線照射に追加することの有効性は確認されておらず、これらの薬剤が血液脳関門を十分に通過しないことが1つの原因と考えられています。現在の標準治療としては、大量メソトレキサート療法を基盤とする薬物療法と放射線照射(全脳照射)の組み合わせが第一選択の治療として推奨されています(脳腫瘍診療ガイドライン https://www.jsn-o.com/guideline/index.html)。
特に高齢者においては,全脳照射に伴う白質脳症などの神経毒性が認知機能を低下させる可能性があり,全脳照射が待機されることもあります。
最近、ブルトン型チロシンキナーゼ阻害剤(分子標的薬)であるチラブルチニブ(ベレキシブル®)が、再発あるいは難治性の中枢神経系原発悪性リンパ腫に対して保険適応となり、期待されています。
従来の全脳照射による生存期間は12〜18ヵ月でした。近年、大量メトトレキサート療法を基盤とする薬物療法と全脳照射の併用により、3〜5年1)と改善していますが、依然、長期寛解や治癒に至る患者さんは多くはありません。しかし、治療法の進歩は目覚ましく、当院では様々な治療法を準備し、個々の患者さんに最善の治療を提供すべく努力しています「慶應脳外科としての取り組み(特長)参照」。
稀な疾患ですが、当院では年間およそ4〜5人の新規の患者さんを治療させていただいており、多くの診断困難例、治療困難例を経験してきました。「慶應脳外科としての取り組み(特長)」をご参照下さい。
中枢神経系原発悪性リンパ腫に対しては、国際的に臨床試験が積極的に行われており、特に最先端の情報、治療法を取り入れることが重要です。
当院では、現時点で最も良い治療成績を示す治療法のひとつである、R-MPV(リツキシマブ、大量メトトレキサート、プロカルバジン、ビンクリスチン)療法、放射線治療、大量シタラビン療法の組み合わせや新規分子標的薬であるチラブルチニブ(ベレキシブル®)をはじめ、様々な治療法を準備しています。
豊富な治療経験と血液内科との密接な連携と合わせ、個々の患者さんに最善の治療が提供できるよう努力しています。
本疾患の脳神経外科 担当医師は
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