髄膜腫は、脳腫瘍の一つです。ほとんどは良性腫瘍で、ゆっくり大きくなるか、あるいは大きくならない場合もあります。また、基本的には他の場所へ転移することはありません。しかし、数は少ないものの、異型性髄膜腫(約4~7%)あるいは悪性髄膜腫(約1~3%)と呼ばれる悪性度が高いものもあります。
髄膜腫の特長は、頭蓋骨の内側で脳を包んでいる髄膜から発生することです。つまり、脳そのものではなく、脳の外側に発生した腫瘍であり、脳を外から圧迫しながら成長します。このことは、脳を傷つけずに腫瘍だけを取り除くことができる可能性があることを意味します。
原発性脳腫瘍の25%程度と、日本の脳腫瘍統計でも最も数が多く、また最近は、脳ドックの普及や、頭をぶつけるなどでCT、MRI検査をして、腫瘍による症状が出ていない場合でも、たまたま発見される機会が増えています。40~50歳代以降の中高年に多く、性別では女性の方が男性よりも多い傾向にあります。
髄膜腫は、発生する場所によって分類されることが多いのですが、それは、同じ大きさの髄膜腫でも発生場所によって起こる症状や治療の難しさが変わってくるからです。代表的な発生場所は、傍矢状洞(ぼうしじょうどう)部、円蓋(えんがい)部、大脳鎌(だいのうかま)が多く、頭蓋内にできる髄膜腫の半数以上を占めます。頭蓋底部では、嗅窩(きゅうか)部、鞍結節(あんけつせつ)部、蝶形骨縁(ちょうけいこつえん)、斜台(しゃだい)部、テント、中頭蓋窩(ちゅうとうがいか)、小脳橋角(しょうのうきょうかく)部、後頭蓋窩大孔(こうとうがいかだいこう)付近などにみられます。硬膜に接していない場所に発生することもあります。なお、頭蓋底髄膜腫に関しては、別項に詳しく紹介してあります。
髄膜腫がなぜできるのかについては、明らかな原因はわかっていませんが、いくつかの遺伝子異常が関係していると考えられています。
症状は、髄膜腫の発生部位やサイズによって様々です。一つ言えることは、腫瘍のサイズが大きくなればなるほど、症状も強く出てくるということです。サイズが小さければ無症状のものも少なくありませんし、腫瘍が成長するスピードは遅いので、腫瘍のサイズが大きくなっても症状は徐々に出現します。
発生部位によらず、腫瘍のサイズが大きくなると、頭蓋骨の内部で圧力が高まり、頭痛、吐き気、嘔吐、などが起こります。一方で、髄膜腫が大きくなってきて脳を局所的に圧迫すると、圧迫された部分の脳機能が異常をきたし、様々な症状を出すようになります。例えば前頭部の髄膜腫では、けいれん発作、歩行障害、認知症などの症状が起こります。頭頂部の髄膜腫では、手や足の麻痺やけいれん発作が起こります。頭蓋底に発生した髄膜腫は、脳神経の圧迫症状が出現することが多く、視力や視野が障害される、ものがダブって見える、顔面の痛みやしびれが生じる、片側の耳が聞こえにくくなる、ものが飲み込みにくい、など、障害される脳神経の働きによって様々な症状が起こってきます。
MRIでもCTと同様で、普通に撮影したT1強調画像ですと、脳と同じくらいの色合いで写りますが、やはりガドリニウムという造影剤を使うと腫瘍が明瞭に写しだされます(図1)。T2強調像やFLAIR画像では、腫瘍が圧迫している脳がむくんでいる(脳浮腫といいます)場合に、その範囲が明瞭に写しだされます(図2)。一般的に、腫瘍と脳の境界は明瞭ですが、脳浮腫が強いほど腫瘍と脳の癒着が強いことが予想されます。
髄膜腫の診断そのものには必要ありませんが、脳血管撮影というカテーテルの検査が行われることがあります。腫瘍と血管の関係や、髄膜腫に栄養を送っている腫瘍血管を調べることで、治療方法を検討する時に必要な情報が得られます。3日ほど入院して頂いて行う検査です。
小さくて無症状のものは、その後大きくなるかどうか画像で経過をみます。特に高齢者では、腫瘍の成長が非常に遅く、大きくならない場合もあるからです。一方で、若年者の腫瘍の成長は早いことが多く、また腫瘍が大きく、腫瘍周辺の脳が浮腫を起こしている場合、放っておくと症状が悪化しそうな場合、画像上悪性が疑われる症例では、症状がなくても治療する必要があります。
症状がすでに現れている場合には、その原因である髄膜腫を積極的に治療することが一般的です。
治療の基本は摘出手術です。再発するかどうかは、腫瘍がどの程度摘出されたかによって決まりますので、髄膜腫が疑われれば、付着部硬膜も含めて可能な限り腫瘍を全て摘出することを目指します。しかし、手術の難易度は腫瘍の発生部位や大きさによって異なり、髄膜腫が重要な血管や神経を巻き込んで成長していれば、術後合併症が起こる可能性を考えて、腫瘍をあえて一部残すこともあります。
一般に髄膜腫は放射線治療が効きにくい腫瘍ですが、腫瘍を完全に摘出できなかった場合には、再発予防のため取り残した腫瘍に対して定位放射線治療(リニアック、ガンマナイフ、サイバーナイフ、重粒子線など)が行われることもあります。摘出が難しい場所にできた髄膜腫を、始めから放射線で治療することもありますが、手術ほど確実な方法ではありません。また、抗がん剤などの薬物療法は、ほとんど効きません。
予定手術の場合、術前の検査はほぼ外来で終わらせます。手術日の2日前に入院して頂き、術後経過が良好であれば、入院から退院まではおおよそ2週間程度です。仕事や家庭内復帰に関しては症例ごとに異なりますので、担当医とご相談下さい。
手術による長期の治療成績(再発率や再治療の必要性など)は腫瘍の発生部位と悪性度によって変わってきます。通常の良性髄膜腫では、手術で硬膜や骨も含めて完全に摘出することができれば、10年後の再発率は数%で、完全治癒も期待できます。しかし、腫瘍が全て摘出できなかった場合には、半数近くで10年後に再発するとされています。異型性髄膜腫あるいは悪性髄膜腫といった悪性傾向を示すものでは、30~80%が再発します。腫瘍の悪性度は、手術で摘出した標本を顕微鏡で検査して確定します。Ki-67というマーカーの陽性率が高いほど、腫瘍細胞が活発に分裂しているということを示し、値が3%以上だと再発の危険が高くなります。この場合も、手術の後に放射線治療を行います。
髄膜腫は血流が豊富な腫瘍ですが、症例を選択し、開頭手術に先立って腫瘍への栄養血管を塞栓する(腫瘍栄養血管塞栓術)ことで、手術中の出血量を減らし、より安全に手術することが可能です。
髄膜腫の手術では、時に輸血が必要になることがあります。通常は、献血でえられた血液を輸血するのですが、他人の血液を用いることによる輸血のリスクも考えなければなりません。あらかじめある程度の出血量が予測される場合には、手術に先立って自分の血液を貯血しておき、これを手術中に輸血する自己血輸血も行っています。ただし、保険適応の条件が厳格であったり、術前の状態によっては貯血が危険であったりする場合もありますので、担当医とご相談下さい。
より安全で確実な手術を行うために、最新の技術を導入した高度な工夫を取り入れています。コンピュータを用いた術前のシミュレーションを徹底的に行い、手術中は、脳機能をリアルタイムにモニターしたり血管造影検査で術中の脳血流を確認したり、コンピュータと連動したナビゲーションシステムを用いて手術操作を行っている場所の正確な位置情報を得たり、内視鏡を駆使して手術顕微鏡だけでは見えない範囲の腫瘍を確認して摘出したりしています。また、耳鼻科、形成外科、放射線科、歯科口腔外科、などの診療科と協力体制を築き、髄膜腫を治療する上で必要な、より高い専門性をもったチーム医療を実践しています。
手術および放射線治療後の再発・進行性髄膜腫に対して、抗PD-1抗体療法の有効性および安全性を検討する医師主導治験を行っております。また、進行・再発難治性髄膜腫に対するVEGF1/2ペプチドワクチンによる臨床試験を行っております。詳しくは慶應義塾大学脳神経外科のホームページをご覧ください。
外来受診については、慶應義塾大学病院のホームページ内の「初めて受診する方」に詳細をお示ししておりますが、「予約制」「紹介制」をとらせていただいています。
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