全ての神経系の発生は、神経板という板を作ることから開始されます。
神経板の左右両側縁では細胞分裂が盛んであるため次第に高くなり(神経隆起)となり、ここから正中部に向って細胞が送り出されるため、正中部は次第に深いくぼみ(神経溝)になります。
左右の神経隆起は神経溝の背側を被うようにして次第に近づき、お互いに接着します。このようにしてくぼんだ神経板は管状(神経管 neural tube)になります。この神経管が脳・脊髄などの中枢神経系となります。
受精後22日頃には、頭側、尾側に向かって神経管が形成されていきますが頭側の開口部(頭側神経孔)は25日頃閉鎖し、尾側の開口部(尾側神経孔)は2日遅れで閉鎖します。神経管腔は脳では脳室系になり、脊髄では中心管になります(一次神経管形成)。
一次神経管形成後の胎生4~7週に脊髄円錐の尾側部と終糸が形成され、中枢神経系の初期形成が完了します(二次神経管形成)。
図1:神経管の形成
・神経管閉鎖障害
上記神経管の形成過程で発生する中枢神経系の種々の形成異常による疾患をまとめて神経管閉鎖障害(neural tube defect: NTDs)といいます。閉鎖障害の場所により、頭部では二分頭蓋、脊椎では二分脊椎となります。
神経管の閉鎖障害が軽度であれば、神経組織は皮膚で覆われていますが(潜在性二分頭蓋・脊椎)、高度であれば神経組織は外表に露出します(開放性二分頭蓋・脊椎)。それぞれ代表的な疾患は、脊髄でいうと、潜在性二分脊椎が脊髄脂肪腫や先天性皮膚洞、開放性二分脊椎では脊髄髄膜瘤(脊髄披裂)になります。
二分脊椎がある場合、脊髄の位置は低位に繋留されている場合が多く、出生時は症状を認めなくとも身長が伸びるとともに脊髄が尾側に引っ張られるため下肢変形や運動機能低下、また膀胱直腸障害を次第にきたしてくることが考えられます*。そのため、係留を解除する手術(脊髄係留解除術)を検討します。
*脊髄の位置
はじめ脊髄は脊柱管とほぼ同じ長さですが、胎生第3月以降は脊柱管長の成長が早く、脊髄の発育は緩徐であるため、脊髄は脊柱管に対して短くなり、脊髄円錐の高位レベルが上がってきます。胎生6か月目には第1仙椎、新生児で第2~3腰椎、成人で第1腰椎下端となります。
図2 脊髄髄膜瘤(左)と脊髄披裂(右)
原因:
上記の通り、神経管の閉鎖障害が原因です。開放性二分脊椎の発生の原因として、補酵素である葉酸が母体に不足することが挙げられています。妊娠前から0.4mg/日の葉酸サプリメントを摂取すると、これらの疾患の発生リスクを約半分に減らせることが知られています。
症状:
潜在性二分脊椎は、出生時におしりから腰にかけての異常なふくらみやくぼみ、色素異常(母斑)、毛髪により発見される場合が多いです。神経症状は、生後すぐには認めませんが、次第に下肢運動障害、感覚障害、下肢変形、下肢の長さ・太さの左右差、下肢の痛み、膀胱直腸障害(尿が出づらい、ひどい便秘など)を次第に認めてくるようになります。
顕在性二分脊椎(脊髄髄膜瘤・脊髄披裂)は胎内で診断される場合も多いですが、出生時に背部~おしりにかけて皮膚が欠損し脊髄が見えているため、肉眼的にすぐに診断が可能です。すでに胎内にいる時から下肢の運動麻痺、感覚麻痺、膀胱直腸障害をすでに認めている他、水頭症やキアリ奇形2型を合併している場合があり、大泉門の膨隆や頭囲の拡大を認めている場合があります。
潜在性二分脊椎(脊髄脂肪腫、先天性皮膚洞)の場合、皮膚の上からエコー検査でわかる場合もありますが、正確な診断はMRIになります。またCTで二分脊椎の程度、範囲が診断できます。乳幼児期のMRIは鎮静が必要になります。また泌尿器科に膀胱機能の評価をお願いしています。
顕在性二分脊椎(脊髄髄膜瘤・脊髄披裂)の場合、肉眼的に診断が可能ですが、出生後すぐにCTもしくはMRIを施行し、脊髄や脳の状態を正確に把握します。
出生前診断では、①母体の血清αフェトプロテイン(AFP)の上昇 ②胎児エコー:二分脊椎のレベルの同定や、脊髄髄膜瘤の伴うキアリ奇形Ⅱ型、水頭症など ③羊水穿刺:染色体検査が可能 ④胎児MRI: 妊娠18週以降に行う、などを行います。
図4:二分脊椎(CT 矢印)
潜在性二分脊椎(脊髄脂肪腫、先天性皮膚洞)で、脊髄係留(引っ張られている)を認めている場合は、脂肪腫を摘出したり、引っ張られている組織を切除したりして、係留を解除します(脊髄係留解除術、脂肪腫摘出術)。
顕在性二分脊椎(脊髄髄膜瘤・脊髄披裂)の場合、外表に出ている神経組織を速やかに硬膜内に収納し、中枢神経系の感染予防、また露出した神経組織への新たな障害の予防を目的とするために、生後48時時間以内(遅くとも72時間まで)に修復術が行われます。
水頭症を合併している場合(約25%)は脳室ドレナージか皮下にリザーバーを留置し、髄液がきれいになってからシャント手術を行います。キアリ奇形2型を合併している場合は、同時並行で減圧術を行っています。
図5:脊髄係留解除術(左:顕微鏡 右:内視鏡)
潜在性二分脊椎(脊髄脂肪腫、先天性皮膚洞)の場合、術後は特に生活や運動の制限はございません。外来で再係留がないかどうか、定期的にフォローをしていきます。
顕在性二分脊椎(脊髄髄膜瘤・脊髄披裂)の場合、下肢症状、膀胱直腸障害は永続的であるため、術後は脳神経外科、小児科、泌尿器科、整形外科、リハビリテーション科など、関連する科の医師や専門看護師が協力して診ていきます。また、社会的資源を最大限利用できるように配慮しています。
全例、術中神経生理学的モニターを使用し、確実な下肢運動機能や膀胱直腸機能の温存に努めています。
皮膚の縫合は吸収糸で行うため、術後抜糸は不要です。
小児科神経班、新生児班、泌尿器科、整形外科、リハビリテーション科の先生方と連携しながら治療を行っています。皮膚欠損が広い場合には形成外科と合同で修復を行います。
本疾患の脳神経外科 担当医師は
三輪 点
外来:毎週木曜日 午前(脳外科外来)、第2,4金曜日 午前(小児科外来) です。
外来受診については、慶應義塾大学病院のホームページ内の「初めて受診する方」に詳細をお示ししておりますが、「予約制」「紹介制」をとらせていただいています。
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